長尺薄物部品の加工ポイント

長尺でありながら薄い板厚の部品加工は、その特有の難しさから多くの加工業者を悩ませる分野です。しかし、半導体製造装置や液晶製造装置、産業用ロボット、航空宇宙関連部品など、先端産業を中心にその需要は高まる一方です。当社は、長年にわたり培ってきた経験と独自の技術力で、こうした長尺薄物加工の課題を解決し、お客様に高精度・高品質な製品を提供してまいりました。
長尺薄物加工における「薄物」とは?
「薄物」と一口に言っても、その定義は様々です。弊社では、板厚8mm以下の材料を「薄板」と定義し、長尺薄物加工の対象としています。このような薄い材料を長く加工する際には、材料のたわみや振動、加工熱による変形など、厚板の加工では顕在化しにくい多くの課題が生じます。特に、平面度や平行度といった幾何公差の要求が厳しい場合、その難易度は格段に上がります。
薄物加工特有の課題と当社の解決策
長尺薄物加工では、主に以下の4つの提案をしています。材料選定から加工方法に至るまで、独自のノウハウで当社は対応しています。
提案1:研削レス加工
薄い材料は剛性が低いため、加工時に発生する応力や熱によって容易に反りやねじれが生じてしまいます。特に長尺材の場合、その影響は顕著に現れ、製品の精度を著しく損なう原因となります。従来、こうした反りを除去するためには、マシニング加工後に研削加工や歪み取りといった後工程が必要となり、コスト増やリードタイム長期化の要因となっていました。当社では、長年の技術開発の末に確立した独自の加工ノウハウと最新鋭の加工設備を駆使することで、研削加工を施すことなく平面度・平行度20μm以内という高精度な仕上がりを実現しています。適切なクランプ方法、最適な切削条件の設定、加工時に発生する応力を最小限に抑える高度なプログラミング技術により、後工程の削減によるコストダウンと短納期化に貢献しています。
提案2:A2017からA5052への材質変更
アルミニウム合金の中でも高い強度を誇るA2017は、その優れた機械的特性から多くの部品に使用されています。しかし、長尺薄物加工の観点から見ると、いくつかの課題があります。まず、A2017の板材は、板厚の公差が大きいという点が挙げられます。例えば、板厚20mmの材料であっても、その公差は±0.5mm〜±0.8mm程度になることも珍しくありません。そのため、お客様が要求する最終的な板厚精度を確保するためには、ご指定の板厚よりも厚い材料を選定し、全面を削り込む必要が生じます。当然ながら、材料の厚みが増せば材料費は高騰し、両面を広範囲に削り込むための加工時間も増大します。結果として、トータルコストが大幅に上昇してしまうのです。そこで、当社ではA5052系の高精度プレート(例えば、
神戸製鋼所様の「アルハイス®」や白銅株式会社様の「YH52®」など)の使用をご提案しています。これらの材料は、メーカー独自の優れた圧延技術や熱処理技術により、残留応力が極限まで除去されており、板厚精度も極めて高いのが特長です。A2017では板厚20mmで±0.5mm~±0.8mm程度だった板厚公差が、A5052系の高精度プレートであれば±0.1mm程度という高い寸法精度を実現します。これにより、厚い材料からの大幅な削り込みが不要となり、材料費の削減はもちろん、加工時間の短縮にも繋がります。さらに、A5052はA2017と比較して材料自体の価格が安価であることに加え、被削性にも優れています。これらの要素が複合的に作用することで、トータル的なコストダウンを実現することが可能です。耐食性や溶接性もA5052の方が良好であり、用途によっては大きなメリットとなります。
提案3:SS400からS50Cへの材質変更提案
S400は、安価で入手しやすい反面、成分規定が緩く、炭素含有量や不純物のばらつきが大きいという特性があります。特に薄物加工においては、この不純物の介在が加工精度や仕上がりに悪影響を及ぼすことがあります。また、残留応力も比較的大きいため、加工中に反りが発生しやすい傾向があります。そのため、当社ではS50Cへの材質変更をご提案することがあります。S50CはSS400と比較して組織が均一で不純物も少ないため、より安定した加工が可能です。また、熱処理によって硬度を高めることもできます。薄物加工においては、その反りにくさが大きなメリットとなり、寸法精度の向上に寄与します。
提案4:SUS304からSUS303への材質変更提案
オーステナイト系ステンレス鋼の代表格であるSUS304は、優れた耐食性を持ちますが、加工硬化しやすく、粘り気が強いです。特に薄物加工では、加工抵抗の増大による変形や工具摩耗の速さが課題となります。そこで、当社では、SUS303への材質変更をご提案することがあります。SUS303は、SUS304に硫黄やセレンなどを添加することで被削性を大幅に向上させた快削ステンレス鋼です。切削抵抗が小さく、切りくずの処理性も良好なため、加工効率の向上、工具寿命の延長、そして仕上がり面の改善が期待できます。耐食性に関してはSUS304に若干劣るものの、多くの環境下では十分な性能を発揮します。