高精度を維持する低熱膨張材の長尺加工

なぜ低熱膨張性材料が長尺部品加工で求められるのか
低熱膨張性材料が長尺部品加工に優れる最大の理由は、温度変化による寸法変化が極めて小さい点にあります。長尺部品は、加工時に発生する熱や工場の室温変化によって僅かでも材料が膨張・収縮すると、全長では無視できない大きな寸法誤差が生じます。低熱膨張性材料は、この熱による影響を最小限に抑えられるため、加工中から測定、組立に至るまで部品の寸法が安定し、全長にわたって高い精度を維持することが可能です。この特性により、設計通りの精密な加工が実現できるため、大型製造装置のベースプレートや精密測定機器のフレームなど、高い寸法安定性が要求される長尺部品に不可欠な材料とされています。特に、低熱膨張性材料として代表的な材料はインバー、スーパーインバー、ノビナイトが挙げられ、これらの特徴を以下にて、比較します。
インバーとは
インバーは温度変化に対して、極めて小さい熱膨張を示す合金です。具体的には、鉄を約64%、ニッケルを約36%の割合で含有する鉄ニッケル合金です。
通常、鉄は温度上昇とともに膨張するのに対し、インバーの熱膨張係数は(約1.2×10−6/∘C)値を示します。インバーが特定の温度域で変化しない理由は、熱膨張が磁性変化による収縮によって、相殺されるからです。
インバーは、その低い熱膨張率を活かし、精密計測機器、光学装置、電子部品といった、高い精度と安定性が求められるあらゆる分野で不可欠な材料として広く活用されています。
ただし、その加工性は、熱伝導率が低いかつ粘りのある材料であるため、工具摩耗が早い難削材とされています。また、熱伝導率が低いと、加工を行った際に熱が材料にこもることで歪みが発生しやすくなります。そこで当社では、刃物の選定、加工条件などを適正にすることで歪みを最小限に抑えた加工を実現しています。
スーパーインバーとは
スーパーインバーは、低熱膨張合金「インバー」の性能をさらに高めた合金です。主な組成は、鉄を約63.5%、ニッケルを約31.5%に加え、コバルトを約5%添加することで、インバーよりもさらに熱膨張係数を低減しています。その熱膨張係数は鉄の1/100以下、インバーの約1/10にまで抑えられます。そのため、スーパーインバーは、インバーよりも低い熱膨張率を持つため、航空宇宙産業、半導体製造装置といった、さらに厳しい環境及び品質管理下で使用される部品に採用されています。
また、スーパーインバーは、その優れた特性ゆえに、インバーよりもさらに高価な材料です。これは、コバルトの添加や、製造プロセスの複雑さに起因します。
ノビナイトとは
ノビナイトは、一般的な鋳鉄をベースに、ニッケルやコバルトなどを特殊な配合で添加した鋳鉄系合金です。ノビナイトの特徴として普通鋳鉄やダクタイル鋳鉄に匹敵する良好な切削性を有しています。さらに、熱膨張係数がインバー合金と同等に低く、温度変化による寸法の変動を抑えたい用途において非常に有効です。
また、ノビナイトは、インバーやスーパーインバーに比べ,
様々な種類があり用途に応じて使い分けることができます。
代表的なノビナイトの種類としては、CF-5、CD-5、CS-5、CN-5、SI-5などが挙げられ、それぞれの特性に応じて様々な精密機器に採用されています。
インバー、スーパーインバー、ノビナイト比較表
項目 | インバー (Invar) | スーパーインバー (Super Invar) | ノビナイト (Nobinite) |
主成分 | 鉄 (Fe) 約64%、ニッケル (Ni) 約36% | 鉄 (Fe) 約63.5%、ニッケル (Ni) 約31.5%、コバルト (Co) 約5% | 鋳鉄 (FC、FCD相当) |
熱膨張性 | 鉄の約1/10 | 鉄の約1/100以下 | インバーと同程度またはそれ以下 |
温度安定性 | 高い | 極めて高い | 高い (種類による) |
主な用途 | 精密機器、測定器、電子部品、検査機器 | 半導体製造装置、航空宇宙産業、医療機器、検査機器 | 精密加工機械のベッド・テーブル、測定器、光学機器 |
価格 | 高価 | インバーより高価 | 高価 |
入手性 | 〇 | 〇 | △ |
種類 | インバー36など | スーパーインバーEXEOS10、0インバーなど | CF-5, CD-5, CS-5, CN-5, SI-5など |